大判例

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東京地方裁判所 平成5年(ワ)4682号 判決

原告

内山治子

被告

大木英雄

主文

一  被告は、原告に対し、金八万八九二二円及びこれに対する平成三年九月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一、三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金四九二万一二一八円及びこれに対する平成三年九月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実及び証拠によつて容易に認定しうる事実

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成三年九月七日午後七時一五分ころ

(二) 場所 東京都江戸川区東小岩五丁目三三番二六号先路上(以下「本件現場」という。)

(三) 態様 本件現場において、被告は、自動二輪車(以下「被告車」という。)を運転して進行中、被告車を、徒歩で横断中の原告に衝突させた。

その結果、原告は、左鎖骨骨折、左経骨近位端骨折、頸椎捻挫の傷害を負つた(甲二)。

2  損害の填補

原告は、自賠責保険から一二〇万円を受領した。

二  争点

1  過失の有無及び過失相殺

(一) 原告の主張

本件事故は、被告の前方不注視の過失により発生したから、民法七〇九条に基づき、また、被告は、本件事故当時、被告車を保有し、これを自己のために運行の用に供していたから自賠法三条に基づき、原告に発生した損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告の認否及び反論

被告が被告車の運行供用者であることは認め、被告の過失は否認する。

本件現場となつた道路は、終日横断禁止の幹線道路であり、本件事故当時、被告の対面信号が青色表示であつたところ、原告は、渋滞中の車両の間から飛び出して、本件現場付近道路を横断して、本件事故に遭つたものであり、本件事故は原告の一方的な過失によつて発生したから、被告に損害を賠償すべき責任はない。

仮に、被告に何らかの過失があるとしても、右のとおりの事情により、九〇パーセント以上の過失相殺がされるべきである。

2  損害

原告は、本件事故による損害として、〈1〉治療費、〈2〉文書費、〈3〉入院付添費、〈4〉入院雑費、〈5〉通院交通費、〈6〉自動車教習費、〈7〉休業損害、〈8〉慰謝料、〈9〉弁護士費用を主張し、被告は、その額及び相当性を争う。

第三争点に対する判断

一  本件事故態様

1  甲一、甲三の一ないし三、甲一四、乙一〇の一、二、乙一二、原告及び被告各本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件現場付近の道路は、新小岩方面から市川方面に向かう車道幅員約八・二メートル、片側一車線のアスフアルト舗装された道路で、中央には黄色実線がペイントされ、車道の外側には歩道が設置されている。交通規制は、制限速度時速四〇キロメートル、終日横断禁止となつており、本件現場から新小岩方面へ約一〇・一メートル向かつた地点に横断歩道があり、信号機(以下「本件信号機」という。)が設置されている。本件事故当時、本件現場付近は、交通頻繁で、渋滞している状態であつた。

(二) 被告は、本件現場付近の道路の歩道寄りを、被告車を運転して、新小岩方面から市川方面に向けて時速約三〇から四五キロメートルで進行し、前記横断歩道の手前約三〇メートルの地点で本件信号機の表示が青色に変わつたことを確認したので、そのまま進行したところ、被告車と同方向に向かう停止中の車両の間から道路を横断してくる原告を、被告車の前方約二メートルの地点に発見し、危険を感じて急制動の措置を採つたが間に合わず、原告に衝突した。

(三) 原告は、本件現場付近道路を市川方面から新小岩方面に向かう車両に同乗中、道が分からなくなつたので、右車両の進行路の反対側にある交番で道を聞くため、本件信号機の表示が赤色になつて、右車両が停止した際、降車し、車道上を市川方面に向けて一〇メートル近く歩き、そこから本件現場付近の道路の横断を開始したところ、被告車に衝突された。原告は、被告車に衝突されるまで、被告車に気付かなかつた。

2  ところで、原告は、本件事故当時、被告車の進行路はすいていたこと、重突地点は、本件現場道路の路肩であること、被告車が本件信号機の表示が赤色であつたのにこれを無視したと主張し、原告は、その本人尋問において、これに沿う供述をする。

しかし、本件事故から間もなく作成された原告立会いの実況見分調書(乙一〇の一)には、被告車進行路に停止中の車両があつたことが記載されていること、衝突地点は、歩道から約一・一メートルの地点に記載されていること、被告立会いの下、作成された実況見分調書、被告の陳述書(乙一二)にも同様の記載があり、被告はその本人尋問においても同様の供述をしていることなどから、原告の本件事故当時の道路状況及び衝突地点に関する供述は直ちに信用することができない。また、本件信号機の表示について、原告は、表示が赤色に変わつてから車両を下りて、約一〇メートル近くを急がずに歩き、左右の安全を確認して横断を開始し、再度中央線付近で立ち止まり左右の安全確認をした(原告本人尋問における供述)というのであるから、被告が信号無視をしたというのは疑問である。むしろ、被告は、横断歩道手前約三〇メートルの地点で本件信号機の表示が青色に変わつたのを確認したこと、そのまま時速約三〇から四五キロメートルで被告車が進行したことからすると、被告車が横断歩道を通過した際の本件信号機の表示は、被告がその本人尋問において供述するとおり青色であつたものと認めることができる。

3  以上によれば、被告は、原告が被告の進行方向右側(被告から見て対向車線側)から本件現場付近の道路を横断してきたのだから、前方を注視していれば、横断を開始しようとする原告に気付いて衝突を避ける措置を採ることができたものということができ、被告の前方不注視の過失は否定できない。

一方、原告は、夜間、直近に信号機の設置された横断歩道があるにもかかわらず、あえて横断禁止場所を渋滞中の車両の間を縫うように横断したこと、被告車の進行速度に照らせば、原告の中央線に達した際の安全確認が十分であれば、被告車の発見は極めて容易であつたということができることなどからすれば、原告の過失は極めて大きいといわなければならない。

右の原告及び被告の各過失を比較すると、原告の損害の七〇パーセントを減ずるのが相当である。

二  損害

1  治療費 一六八万七三六〇円

(請求 同額)

甲八及び弁論の全趣旨によれば、右のとおり認められる。

2  文書費 六八〇〇円

(請求 同額)

甲七の一、二及び弁論の全趣旨によれば、右のとおり認められる。

3  入院付添費 四三万三四四三円

(請求 同額)

甲二、甲四の一ないし一三及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故による受傷のため、平成三年九月一二日から同年一二月一日までの八一日間入院し、その間の付添看護費用として、右のとおり要したことが認められる。

4  人院雑費 九万七二〇〇円

(請求 一〇万二〇〇〇円)

前記のとおり、原告は、本件事故による前記受傷のため、八一日間入院し、入院雑費として一日一二〇〇円が相当であるから、右のとおりとなる。

5  通院交通費 三万三九一〇円

(請求 同額)

甲二、甲五の一ないし二一によれば、原告は、本件事故による受傷のため、平成三年一二月二日から平成四年一月三〇日までの間に一七日間通院して治療を受けたこと、その通院交通費として、右のとおり要したことが認められる。

6  自動車教習費 認められない

(請求 九万四三〇〇円)

自動車教習費は、本件事故と因果関係を有する損害ということはできない。

7  休業損害 五一万八七二一円

(請求 七〇万五四三二円)

甲九ないし甲一二、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時二〇歳で有限会社千原ニツト縫製所に勤務し、本件事故前の平成三年四月一日から同年八月三一日までの一五三日間に合計八〇万九八四〇円の収入を得たこと、本件事故による受傷の冶療のため、入通院期間の合計九八日間休業したことが認められるから、原告の休業損害は、次のとおりとなる(円未満切捨て)。

809,840÷153×98=518,721

8  慰謝料 一四一万八九七三円

(請求 同額)

本件事故に遭つた際、原告が被つた恐怖、苦痛、前記の原告の受傷の程度、冶療期間等の事情に加え、被告が原告の入院保証金一〇万円(自賠責保険金の他)を任意に立て替えたこと等本件記録上に現れた一切の事情を勘案すれば、慰謝料として右額が相当である。

9  合計 四一九万六四〇七円

三  過失相殺・既払金の控除

前記二9記載の金額から、前記のとおり七〇パーセントを控除すると、一二五万八九二二円となり、前記の既払金一二〇万円を控除すると、五万八九二二円となる。

四  弁護士費用 三万〇〇〇〇円

本件訴訟の経緯に鑑み、弁護士費用は右額が相当である。

五  合計 八万八九二二円

六  以上の次第で、原告の本訴請求は、右五記載の金額及びこれに対する不法行為の日である平成三年九月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損書金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松井千鶴子)

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